連載:第4回 中竹竜二さんが聞く【新しい組織・リーダー論】

再生請負人・メガネスーパー社長が語る “負け癖”がついている社員たちを蘇らせる方法

BizHint 編集部 2018年4月17日(火)掲載

コーチ育成のプロ・中竹竜二さんと一緒に、ビジネスの世界で今求められている新しいリーダー論を探る連載。経営不振に陥っていたメガネスーパーに、投資ファンドが社長に選んだのが星﨑尚彦さんでした。現場に入り社員の意識改革に着手、わずか3年で黒字化を達成。その後も順調に業績を伸ばし続けている。星﨑さんのマネジメント手法は一見強烈なリーダーシップ型。だが、実態はどうだったのでしょう。前篇ではメガネスーパー再生物語のポイントをお伺いします。

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~この記事でわかること~

  1. 再建を引き受けた星﨑社長がまず最初に行ったこととは?
  2. 指示待ちになっていた社員を変えるため言い続けたこととは?
  3. ダメな会社に共通する「5つのポイント」とは?

中竹竜二さん(以下中竹) :スポーツの世界では、 「日本人は“負け癖”がついていることに自覚がない」 と言われることがあります。選手たちはまじめに練習に取り組んでいるし、選手たちにはテクニックもある。それでも肝心の試合の時には勝てない。しかも一度負けると、その後も負け続けることが珍しくないんです。自信を喪失してしまうのか、意識してないのか。「どうせ今度も負けるんだろう」と思ってしまうんですね。 こうした負のスパイラルに歯止めをかけ、 チームで勝つためには1人ひとりの意識改革が必要であり、リーダーやトップの役目がとても大事 です。

星﨑さんは2013年、経営不振だったメガネスーパーの社長の再建を任されました。その後みずから現場に入り、まさに“負け癖”がついていた社員たちとどうやって一緒に組織風土を変えていったのでしょう。そのお話からお伺えないでしょうか。

星﨑尚彦さん(以下、星﨑) :メガネスーパーはかつて日本で業界2位にまでなった大手チェーンです。2000年代後半から、「メガネの低価格化」を売り物にした新興チェーンとの競争に巻き込まれ、2011年からは3年で2回の債務超過に陥ってました。倒産危機の状況に対し、2011年に投資ファンドが入り、翌年、私が社長として派遣されたのです。

第一印象は「自覚がない会社」「危機感がない会社」

この会社の第一印象は「自覚がいない会社」「危機感がない会社」でした。中竹さんが言うように社員たちはある意味 “負け癖”がついていたのかもしれません。 会社の 売上高は年間150 億円で赤字は26億円。前年同月の既存店売り上げ比率は9割程度 のまま。毎月赤字を続けていたのです。数カ月で会社がなくなるかもしれない。それなのに社員たちは「給料が上がらない」「7年間ボーナスがでない」と嘆いている。かといって何もするわけではない。業績が低迷することも、給料が下がってもそのまま受け入れ続けていた。まさに負け続けることが当たり前になっていたんです。

中竹: なぜ “当たり前”になったのでしょう。

星﨑: 創業一族がとても強く、社員たちも社長らに意見することができなかったのでしょう。もちろん、経営者たちが的確な判断ができているうちは良かったのですが、社長の周りにいるのはイエスマンばかりで意見を言う社員は飛ばされてました。何をしても評価されない。ボーナスは出ないけど給料は出る、となれば、何もしません。経営者には正確な情報も入らず、社員たちは自分で考えなくなります。

投資ファンドが入り、赤字を垂れ流していた部分を軽くし、会社やお店のロゴを変えた。店の雰囲気変えるなど、いったんインフラを整えました。だから「潰れることまではないだろう」と安心していたのでしょうが、単に沈みそうな船の重荷を降ろしただけです。浮上する要因は1つもない。僕の目にはこの会社は沈む船でした。僕は言いました。

「皆に好かれるために社長に来たわけはないので正直に言うよ。この会社は死ぬよ」 と。

沈む会社の社長になった理由

中竹: そんな沈みそうな会社の社長をどうして引き受けたのですか?

星﨑: 社長や現場が考えられることをすべて試して、それでも業績が悪いのであれば、誰が社長をしても難しい。でも、業績が悪い会社って、本来やるべきことをやっていないケースが多いんです。 やるべきことをやることができれば、復活する可能性が高い。 この会社にはその可能性があったから引き受けたのです。

中竹: やるべきこととは?

星﨑: 一番大事なのは社員のみなさんが「少しでも売り上げがあがることを自分で考え実行すること」です。 ヒットするかどうかは分からないけどそれを高速でトライアンドエラーを回転し続ければいい。 それがみんなの“当たり前”になる風土をつくることです。

そのためには、まずは、「上からの指示がなければ動いてはいけない」などの勘違いした負け癖を壊すことからです。

現場社員は「やるべきことは分からない」

中竹: まず何から始めたのでしょう。

星﨑: 現場の社員たちが何を見て、何をしているのか。それを知ることです。そのためにも私自身が現場に入りました。まずは社長直轄の店舗を6店舗運営することにしたんです。 やるべきことは少しでも売り上げにつながる工夫を集めること。 商品の棚を変えたいのか、POPをつくりたいのか、お客さんを読み込むためのDMを打ちたいのか。多少おカネがかかってもそれ以上に売り上げが期待できることであればいいんです。それを求めました。 でも、そうそう簡単には出てきません。 「え、おカネをつかっていいのですか?」「投資ファンドが指示して変更したデザインは、勝手に変えてはいけないんじゃないのでは?」――そんな間違った思い込みをしている社員ばかりで、社長が言っているのに(笑)みんな今までとの変化に追いつけず直ぐに反応が出来ないのです。

こんなことがありました。投資ファンドが入ってから、2012年に店の外装内装を大きく変えたんです。メガネスーパーのロゴを英語がメインにしたり、店舗の外観に木製の柵を立てたりしたんです。ところが店舗デザインを変えたら、店の中の様子が分からなくなり、メガネ屋だと認知されにくくなっていたのです。 ある日、店の前に立っていた私に、おばあさんが「ここにあったメガネ屋さんはどこに引っ越したんですか」と訊ねられた時は本当にショックでした。僕は、その場で、店舗の外観にあった木の柵を外しました。

「もしできるならば……」という前置きは不要

中竹: 現場の店員たちは驚いたのでは。

星﨑: ええ。会社が決めたことだから変えちゃだめだと思い込んでいたんです。でも、ファンドは木の柵を大事にしてくれることを求めてません。少しでも売り上げをあげることを望んでいるんです。仮に売り上げが下がる原因になっているならば、積極的に提案して修正すればいい。「私が責任をとるので、どんどん変えろ」と言いました。 最初は 社員たちも半信半疑でしたが、そのうち、「もしできるのなら……」と前置きしながら、改善意見をいってくれるように なりました。

ただし、「もし、できるなら」ってオカシイ言葉ですよね。ビジネスの世界でできないことって法を犯すこと、社会的規範を超えるようなことぐらいなもの。あとはなんでもできるんですよ。 「もしできるなら……ではなく、ビジネスではほとんどのことができる。それよりも、 あなた自身が、やりたいか、やりたくないかが大事 」。もう毎日言い続けました。さっきの会議でも言い続けました。こう言い続けることで、自分で考えて動く人たちが出てくるし、そのうちに成功例がでてきたんです。そこでようやく売り上げが、下げ止まった店が出てきたんです。

直営店で試してみて、 うまくいったことを全国で共有しようと毎週月曜日の昼12時から全国の地区営業責任者や店長に集まってもらうように してきました。会議参加者はマーケティングや商品部をはじめ、本社の各部署部隊も対象にしました。大人数になり捌ききれないので会議は夜まで出入り自由の形で開催。金土は「キャラバン」として地方の店舗回りです。自分でマイクロバスを運転しながら、地方を回っています。当時1000人の社員のうち600人は毎週会っていたし、いまも社員1600人のうち800人は毎週会っています。会議のあとの飲み会もあり、できる限りに、個別で話す機会を増やそうとしています。

おそらく、いま僕以上に社員の顔を知っている人はいないと思います。「メガネスーパーの瓦版」といわれるほど、誰と誰が仲いいとか、悪いかまで把握しています。店長たちよりも現場の社員らと繋がっていたりしますから(笑)。

スピードは緩めない

中竹: 会う頻度が高まるほど、情報伝達や仕事のスピードが違ってきますね。

星﨑: ええ。会議の場で決めたことは翌週にはチェック。一週間放置する案件はありません。かなりスピードが速い組織になってきたと思います。「黒字になるまでは俺はスピードを緩めないから」。そう言い続け、3年後に黒字が近づいてくれば、「黒字ならば、10億はほしい」。10億円が見えてきたら「やっぱ20億円だろう」とどんどんハードルを上げています。

中竹: 社員にとっては、なかなかゴールに達成できない。優秀なコーチの基本です(笑)。

星﨑: ええ。でも、この目標、このスピードに着いてこれれば、君たちは仕事の超人になれる。漫画『ドラゴンボール』に出てくる超人“スーパーサイヤ人”のようになれるとも言っています。

スーパーサイヤ人に変身できるとの確信

中竹: 星﨑さんの中には、負け癖がついた会社の社員たちが、ある日、サイヤ人に変身できるとの確信があったのでしょうか。

星﨑: ダメな会社に共通しているのは、(1)会議で物事を決めない(2)誰も責任をとらない(3)決めたことをやらない(4)部署を超えた協力がない。そしてリーダーたちが現場を知らず(5)ヒトの配置ができてないことです――。逆にいえば、これらのことをきちんとやればいいのです。 ただし、社員たちは、先ほども言いましたように、間違った考え方で凝り固まっていました。この固定概念を壊わし、あとは適材適所で、その人が向いている場所で能力を伸ばしてあげるようにすればいい。やがて成果は出ます。

1年間365日それを4年間、社員たちと一緒にいれば、みんなの適性は分かりますよ。僕、学生の頃から他人の適性を見つけるのが得意なんです。中学校のラグビー部にはじまり、高校や大学では柔道部やスキー部のチームを率いてきました。チームスポーツにとって適材適所の配置が大事。これが、僕の経営のベースになっているところがありますね。ですから、中竹さんの言う「コーチ論」も理解できる部分が多い(笑)。

中竹: では、対談の後半では、企業再生のお話の続きとともに、星﨑さんのリーダーとしての原点もお伺いできればと思います。(続く)


星﨑尚彦さん

1966年、東京都生まれ。大学卒業後、三井物産に入社。アパレル事業などに約10年携わった後、スイスIMDビジネススクールへ留学。MBA取得後、スイスの宝飾メーカー「フラー・ジャコー」の日本法人の経営者に就任。その後、婦人靴で名高いイタリアの皮革製品メーカー「ブルーノマリ」などの日本法人の経営者を務めた。2012年投資ファンドであるアドバンテッジパートナーズからアパレルメーカー「クレッジ」の経営再建を担い、1年半でV字回復を達成。2013年6月、経営不振に陥っていたメガネスーパーの再建を赤字、任され、同年7月に社長に就任、現在に至る。

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