東京・目黒のミシュラン一つ星レストラン「ラッセ」のオーナーシェフ・村山太一氏は、2017年からサイゼリヤ五反田西口店でアルバイトをしている。そのバイト経験はレストランの生産性を劇的に改善させ、コロナ禍でも黒字を達成した。そんな村山氏とサイゼリヤの正垣泰彦会長・堀埜一成社長との鼎談をお届けしよう——。(第1回/全2回)

※本稿は、村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。レストランの女性スタッフがオープンの準備中

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アルバイトのランクは一番下のC

【村山】僕、正垣会長に呼ばれてサイゼリヤに来たんです。正垣会長の『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』という本に、こう書いてあります。

「もしも、一流料理人でサイゼリヤのメニュー開発に興味を持ってくれるような柔軟な発想の人と出会えたら、力を貸してくれないか、と声をかけたいと思っている」

【正垣】そんなこと言ったかな?(笑)

【村山】すごく働いてみたいと思いました。

【正垣】出くわすこと、自分の前にあることが最高なんだよな。あなたがサイゼリヤに出くわしたのも、目の前にあるだけの話だから最高なんだよ。それは意識してやっているわけじゃないから。

【村山】じゃあ今この場も最高ですね。

【正垣】あなたには、良いところしか見えないのだと思う。悪いところを見たらキリがないんだけど、大したもんだよな。次ページ

目の前にあるチャンスを捕まえられるか

【村山】五反田西口店でアルバイトしてるんですけど、皆さんとめちゃくちゃ仲良くさせてもらっています。僕もスタッフ連れてサイゼリヤで飲み会とかやるんですけど、「村山さん、バイト来てくださいよ」って高校生の子から言われて。先輩ですね、僕からすると。

僕、いまだに一番下っ端のCランクなんですよね(笑)。みんなすっごい仲良くしてくださるので、めちゃくちゃ嬉しくて。

【正垣】素直なんだよ、大したもんだよと思うよ。出会いを活かし合えばいいだけの話だよな。

【堀埜】チャンスは常に来ている。それを逃がさずに、捕まえていけばいいんです。

素直に観察してすぐ試す実行力

【村山】僕も3年前からバイトさせてもらっていて。うちの店は小さいので、学んだことを反映しやすいんです。

村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)

そうしたら今まで僕の店9人でしか回せなかったんですけれども、今4人で回せるようになって。

コロナで5月の売上が昨年対比48%だったんですよね。それでも11万円の黒字になったんです。これすごいなと思って。

【堀埜】外から見ると、よく見えるのよ。サイゼリヤの人間が気づかないところでも気づける。それをそのままやったというのが、うまくいった一つの要因やね。

そこで持っているすごい能力があって、一番は観察力なんだよ。この本(『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』)を読むとそれがどうしてできたのかわかる。ずっと見てる。

【正垣】ものすごい素直になれて観察できるので、それが最大の武器なんだよね。だからサイゼリヤを見ていても人とは違うものが見える。それをすぐ試す行動力がある。

【村山】チェーンストアを指導した経営コンサルタント、渥美俊一さんの本はほとんど持っているんですけど、それを実際に実践されているサイゼリヤで働くのがめちゃくちゃ楽しいんです。これが面白くて面白くて。

うちの店、グリストラップ掃除が1時間とか30分とかかかったのが、本当に今3分なんです。これが本当に感動して。バイトに行くのが楽しくてしょうがない。

【正垣】元のもっと奥にある考え方がいいから、ものを見たときに観察できるわけです。あなたの考え方が正しいから、そういう縁が出てくる。だからサイゼリヤと共鳴したんです。

【村山】そうなんです。本当にそれが嬉しくてしょうがないです。

「理屈」×「楽しい」が一番すごい

【正垣】あのね、お客さんに値打ちのあるもの出したらお客さんが来るって理屈はわかるんだけど、理屈がわかってもダメなんですよ。楽しくなきゃダメなの。喜びがあるの。

理屈と喜びがくっつくとね、信じられるんですよ。あなたがサイゼリヤで働いて楽しい楽しいと言う、これは信じているんですよ。みんな理屈通りにやろうとするんだけど、仕事が楽しくないんです。あなたは楽しいからそこに違いがある。すごいものを持っているんですよ。

あなたが信じているのは何かって言ったら、真理なんだけど、たぶん自分でもわかってないの。だけどなんとなく、それを信じているわけ。だからそれがすごいんだよね。

【村山】noteの記事が出て2週間で堀埜社長がうちのレストランに来てくださって。めっちゃ嬉しくて。

【堀埜】会ってきました(笑)。

【正垣】すごいんだよ。だから全てうまくいっているの。

【村山】うちの店もコロナのとき、スタッフに「僕たちも休業しますか?」って言われて、話し合いました。コロナは何なのかっていうのをもう徹底的に調べて、こういうことを避ければ感染しづらいんだとわかったときに、店やろうって決めて。やってみた結果なんとなくうまくいっている感じなんです、今のところ。

それって僕自身がサイゼリヤで働かせてもらって、学んだことをうちのレストランに転換して、経営の基盤をつくる時間があったからこそ、今回乗り切れたなって思っているんです。やっぱり、めちゃくちゃ経費が下がるんです。

経験をムダにしなければ大成する

【村山】僕たちだけで楽しい思いをするのはもったいないので、日本中の個人経営の飲食店がサイゼリヤをマネすれば、すごいことになります。どこをどうしていったらいいのかを発信していきたくて。これをやりたくてしょうがないんです。

【正垣】そういう人が自然とこうやって出てくるんだよ。俺がやらなくてもな。

【堀埜】サイゼリヤの経験っていうのは役に立っているんだけど、実はその前の10年間ぐらい、ものすごく身になっているんだよね。それがなかったらサイゼリヤ来てもダメやった。全ての経験は、全部に生きてる。

【正垣】つながっているんだよな。

【堀埜】苦しい期間があったからこそ、観察力がめちゃくちゃ伸びて、サイゼリヤでいろんなものが見えてしまったという。ムダがないね。

【村山】すごい見えました、本当に、全部。

【正垣】だから自分が経験したことをムダにしないと、必ず大成する。成功する。ムダなことは一個もないから活かしてやるんだよな。

見返りのないことをするとストレスがなくなる

【村山】店のオープンが東日本大震災の直後だったので、全くお客さん来なくて。目黒の店付近のガードレールをずっと拭いていたんです。目黒の駅までずっとホウキで掃いて、ガードレールをきれいにしたら交通事故が減るだろうなと思いながら、毎日ずっとやったんですよ、朝から晩まで。

全然一人もお客さん入ってこなくて、ガードレール拭きだけで1日終わったこともあって。

けど、何かしら人のためにやらないと、何のために僕は店をやっているかわからないし、何のために生きているのわからなくて。店を始めて、毎月200万円の赤字を垂れ流して、どうしようかっていうときでも、やっぱり何かしら人のためにやりたいなと思ったので、考えられることは結構やり尽くしたあとに、ガードレール拭きだって。ガードレール

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【正垣】あなたすごいんだよ。あのね、普通の人が人のためって言ったら見返りを考える。見返りのないことはエネルギーと一緒だから。俺ら空気を吸って生きているけど、空気は何か見返りを求めているわけではない。

【村山】そうそう、植物からもらっているので。

【正垣】見返りがないことをやると、自分の表面の心じゃなくて、奥の心がエネルギーと共鳴するからストレスがなくなるんだよ。だからあなたが見返りのないことを一生懸命やっているんだけど、これはあなたにとってすごく正しくものを考えさせる土台をつくっているわけ。

だけど、お客が来ないときにガードレール拭きをすると、心の奥が喜ぶわけ。それでその喜びが信じることにつながっちゃう。嬉しいから。不安でしょうがないんだけど、それをやることによって落ち着いてるわけだよね。あなたのそういう考え方が、今の仕事につながっている。

お客様が来ないなら自分の考えが間違っている

【正垣】結果がうまくいかない、周りが苦しんだりする時は、必ず自分が間違ってるんですよ。俺は間違っているんだとわかれば、自分を変えることができるでしょう? その繰り返しで成功するんです。だからお客が来ないっていうのは、自分の考えがおかしいってことなんです。

【村山】本当にそうですね。

【正垣】自分の考えをフラットにして、自分の考えがおかしいから来ないんだって。レストランをやってみて、高くてまずいからお客さんが来ないとわかった。だから、どこよりも安く出すことにしたんだよ。だからお客さんが来るわけ。

普通の人は「こんなに安くて美味しいのに」って言うけど、違うんだよ。自分の腕じゃこれ以上美味しくできないから、価格下げたんだよ。

1号店の立地は最悪の場所だと思っていた。でも、おかげで高くて美味しくないものを出してるからお客が来ないんだってわかった。本当は最高の場所だったんだよ。だから1500も店が、簡単にできるんですよ。

【村山】確かにそう思います。【関連記事】2カ月で約30kg痩せた男が白米のかわりにたっぷり食べていたものサイゼリヤでバイトを始めたら、45歳の凄腕シェフは「皿洗い」に変わったサイゼリヤ流に変えたらスタッフの給与が1.5倍になった1つ星店の奇跡45歳の凄腕シェフが「サイゼリヤは飲食業界の理想郷」と断言するワケ夜の繁華街に行きたい従業員を、トヨタの「危機管理人」はどう説得したのか1234

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