下記のレポートを読ませて頂きました。

信憑性が高いので、全文を保存させて頂きました。

鄭 斌。

2019年6月29日。

 

昭和「ワタミ型」、平成「鳥貴族型」 令和で成功する居酒屋の4条件とは?

1、居酒屋業界の売上高と日本人の酒離れ

飲食店コンサルティングを手掛けるスリーウェルマネジメント代表の三ツ井創太郎です。今回は業界全体が縮小して厳しい経営環境にある「居酒屋業界」に関して、「令和時代に生き残る居酒屋の4つの条件」というテーマでお話をさせていただきます。

居酒屋業界の売上高と日本人の酒離れ

まず、居酒屋業界の過去30年間の売り上げ推移を見ていきます。

公益財団法人「食の安全・安心財団」が発表している「外食産業市場規模推移」によると、居酒屋・ビヤホール等の売上高は1980年代のバブル景気に乗って大きく成長し、92年度のピーク時には約1兆4629億円でした。しかし2017年度には約1兆94億円とピーク時の69%程度にまで落ち込んでしまっています。

ここ数年はやや回復傾向にあるものの、居酒屋業界は依然として厳しい環境となっています。

次に、「日本人の酒離れ」について見てみましょう。経済産業省の経済解析室が公表している鉱工業指数で、酒類の出

荷推移を確認できます。国産ビールの出荷量(課税移出量)を見てみると、07~17年の10年間で約25%減少しています。日本酒に至っては10年間で約29%も減少しています。

では、日本人の「食」全体に対する支出が減っているかというとそうではありません。中食(購入して持ち帰るあるいは配達などによって、家庭内で食べる食事)の売り上げはどうでしょうか。中食業界の売り上げをみる上で一つの指標となる「料理品小売業」の過去30年間における売り上げの推移を見ていきます。

こちらは外食産業や居酒屋業界とはうって変わり、30年前は2兆2187億円であった売り上げが17年には7兆7040億円と実に347%も伸びているのです。つまり昔は家で作って食べる以外の選択肢として「外に食べに行く=外食」が大きなウェイトを占めていましたが、近年では「外で買って家で食べる=中食」というニーズが大きく高まってきていることも、外食産業全体や居酒屋業界の不調に影響を及ぼしているといえます。

次に、今後の居酒屋業界のトレンドを分析するに当たって、同業界の歴史を見ていきます。

2、居酒屋業界の歴史を振り返る

居酒屋業界は70年代に入ると毎年2桁成長をする産業として大きく飛躍します。そしてその勢いはバブル経済の波に乗り、さらに成長を続けていきます。まさに昭和後期は居酒屋の成長期でした。この時期の大きな特徴は「総合居酒屋」です。総合居酒屋とは、その名の通り、お刺身、焼き鳥、おつまみ、ごはんなどさまざまなメニューが楽しめる形態の居酒屋の総称です。こうした総合居酒屋の全盛期をけん引した会社が(昭和後期である)84年に誕生したワタミです。「つぼ八」のフランチャイズ店舗として展開していた同社は、92年に居酒屋「和民」を出店し、そこから大きく事業を拡大し98年8月に東京証券取引所市場第二部に株式上場。2000年3月には東京証券取引所市場第一部に株式上場を果たします。

総合居酒屋として平成の時代に事業拡大を成功させた同社ですが、直近の7年間の決算資料を確認してみると、13年3月期に740億円あった同社の国内外食事業売り上げは19年3月期では477億円と約64%にまで縮小しています。

総合居酒屋業態の不調は和民に関わらず、その他チェーンも同様です。こうした総合居酒屋の苦戦が苦戦する要因の一つとして「専門居酒屋」の台頭が挙げられます。平成の中頃から終わりにかけては、焼き鳥専門店の「鳥貴族」、鳥料理専門店の「塚田農場」、ギョーザ専門店の「ダンダダン酒場」といったブランドが大きく成長し上場を果たしています。これは昭和時代の「総合居酒屋」から、平成時代に「専門居酒屋」へトレンドが大きく変わったことを表しています。

3、昭和居酒屋、なぜ苦戦したのか?

昔は「何でも食べられるお店」というのが消費者のニーズでした。しかしながらライフサイクル(購買経験)が進むと、消費者はより「本物」を求めるようになります。また、平成の時代は数多くの「食品事故」「食品偽装」「食中毒事故」がテレビなどで報じられ「食の安心・安全」「本物感」に対する消費者意識が高まった時代でもあります。

つまり、例を挙げるとすれば、平成後期になり「何でもある総合居酒屋で外国産の鶏肉を使った焼き鳥を食べるよりも、専門店で国産の鶏を使った焼き鳥を食べたい」というニーズが増えていったのです。実際に焼き鳥専門居酒屋の鳥貴族では「国産国消」をコンセプトに掲げ、国産の鶏肉を使用しています。さらに鶏肉は全て店内で串打ちをしています。総合居酒屋では、品目数が多く仕込みが多岐にわたるため、焼き鳥を1本1本店内で串打ちするといったオペレーションは到底できませんし、数ある商品の中で焼き鳥だけにこだわっても、専門店ほど焼き鳥の売り上げ(売上構成比)を高めることはできません。逆にいえば専門店は核となる商品を絞り込んでいるため、生産効率を高めると同時に、お店のこだわりや本物感をより消費者に伝えやすいのです。

それでは、平成が終わり令和時代に突入した今、これからはどのような居酒屋業態がトレンドになっていくのかを解説していきます。

 

4、月商が3倍になった「劇場居酒屋」

名古屋市に本社を構えるイートジョイ・フードサービスが手掛ける「毎日!北海道物産展 ネオ炉端 道南農林水産部」というお店があります。同店は名古屋市を中心に現在3店舗を展開しており、都内やシンガポールへの出店も決まっています。

同社は総合居酒屋を長年に渡って展開してきました。他の総合居酒屋チェーンと同じく平成後半から売り上げの低迷が続き、いよいよ店舗リニューアルを決意したとのことです。

新しいお店のコンセプトは「北海道物産展×ネオ炉端×食のエンタメ」。単にさまざまな種類の料理やお酒を提供するだけの居酒屋ではなく「食のエンターテイメントを提供する場」として大きくコンセプトを変更しました。

最高級のウニ「蝦夷バフンうに」を“お客様の目の前で”のりに巻いて提供するメニューや、元気な掛け声と共にお客様が「ストップ!!」というまで、“お客様の目の前で”いくらを注ぎ続ける名物メニュー「いくらごぼれご飯」など、食のエンターテイメントをテーマにしたメニューが同店には多数用意されています。実際にお店に訪れてみると、平日にも関わらず満席状態でした。そして印象的だったのは、他の居酒屋に比べ女性客や若いカップルなどが多いこと。また、スタッフの名物商品の提供パフォーマンスが始まると、多くのお客様が自分のスマホでバシバシと写真や動画を撮り始めます。その光景はまさにエンターテイメント「劇場型居酒屋」といった感じです。

同社の桜井博教社長にお話を伺うことができました。総合居酒屋から劇場型居酒屋にリニューアルしたことで、月商が500万円から1500万円へと3倍になったそうです。お客様の目の前で最終調理を行うメニューを多数用意することで、お客様がスマホなどでメニューを撮影してくれるようになり、SNSで拡散し、それを見たお客様が次々と来店するという相乗効果が「売り上げ3倍」というV字回復を実現させたそうです。

最近では同店に限らず、全国でこうしたエンターテインメント性を取り込んだ劇場型居酒屋が話題になってきています。

5、令和時代に生き残る「劇場型居酒屋」の4つのポイント

今回の「毎日!北海道物産展 ネオ炉端 道南農林水産部」の事例から令和時代に生き残る居酒屋の4つのポイントをまとめていきます。

(1): 劇場性

居酒屋業界の歴史を踏まえてライフサイクルを見ていくと、トレンドは昭和時代=総合化、平成時代=専門化、そして令和時代は劇場化に進んでいくといえます。冒頭にも述べましたが「外食できるだけで満足」という消費者マインドは昭和の時代と共に終わりました。中食業界の台頭や酒離れなども影響し、令和の時代の消費者は「わざわざ外食する理由」を求める傾向がより強くなります。こうしたトレンドを踏まえ、お客様の前で調理を行い、いわゆる“シズル感”を前面に打ち出し、お店のエンターテインメント性や劇場性を打ち出すブランドが増えてきています。

(2): 省人性

人材不足がより深刻化する令和時代には「省人性」も大きなキーワードとなります。先に述べた「劇場性」と「省人性」は相反する部分がありますが、ここで重要となるのは「人がやる必要がないことは機械にさせ、人にしかできないことは人がやる」という考え方です。つまり、注文のオーダー、調理工程、食材発注などの業務に関してはITや外部サービスをどんどん活用して、今までの「人海戦術」から脱却し、逆に自社の付加価値の部分に人材を集中させていく戦略が重要となります。

(3): 拡散性

現在の飲食店を繁盛させるためには、インターネット上における拡散性は重要な要素になっています。これはつまりInstagram、Facebook、TwitterといったSNSや、各種口コミグルメサイトなどで「どのように」「どれくらい多くの人に」拡散されるかということです。自社の狙ったターゲットに対してより多く拡散されるためには、当然ながらそのお店のコンセプトや商品へのこだわりやインパクトが重要となります。

(4): 本物性

そして何よりも大切なのは、そのお店のサービスや商品が「本物」であるかどうかです。SNSなどで一時的に拡散されるお店であっても、一過性のブームで終わってしまっては「生き残る」ことはできません。居酒屋業界は成熟産業であり「ただ単に流行り物の商品を出していれば流行る」というほど簡単な業界ではありません。インターネットやSNSなどでのPR戦略と並行して、QSC(クオリティー=品質、サービス=接客、クレンリネス=清潔)レベルを向上させていく企業努力が必要不可欠になります。

6、令和時代に生き残る居酒屋像とは?

かつて外食産業が大きく飛躍した昭和時代の消費者は「外食」という行為自体に「楽しさ」を感じていました。しかし、消費者はこれだけ外食に対するライフサイクルが進む中で「外食をする」ということだけでは満足できなくなっています。また昭和、平成と外食業界のチェーン化が進む中で効率化が重視されるようになり「楽しさ」自体も薄れていってしまいました。こうした時代背景を踏まえると「劇場型居酒屋」には、消費者が潜在的に求めている「外食の楽しさ」が詰まっているのです。そして、平成後期から若者層を中心に「自分だけが楽しむのではなく、SNSなどを通じてその楽しさを他の人とシェアしたい」というニーズが高まってきました。劇場型居酒屋はいわゆる「SNS映え」するという点で、こうしたニーズにも対応しているといえます。

飲食店に対する消費者の目がますます厳しくなり、ニーズのさらなる多様化が予想される令和時代において居酒屋業界で生き残る為には、改めて自社の付加価値を磨き上げた上で、その付加価値をどのように消費者に発信していくのかが重要になります。

 

三ツ井創太郎
株式会社スリーウェルマネジメント代表取締役。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う傍ら、日本フードビジネス経営協会の理事長として店長、幹部育成なども行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。

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